高知県大豊町に残された竜宮伝説眠る「箕淵(みぶち)」は、仁淀ブルーに匹敵、あるいはそれを超える神秘の青をたたえています。今回はベールに包まれた箕淵をご紹介します。
まずはおさらい、高知県の仁淀ブルーとは
四国および西日本最高峰の石鎚山を源流とし、高知県の中央を流れる仁淀川(によどがわ)。急峻な山あいの峡谷を流れる美しき清流は、国土交通省が毎年発表する「水質が最も良好な河川」において、過去12年間で10回も選ばれるほど全国屈指の透明度を誇り、今や「仁淀ブルー」の名で全国的に人気のスポットです。
しかし、そんな仁淀ブルーに匹敵するブルーが、仁淀町から東へ離れた高知県中央部、吉野川が流れる大豊町(おおとよちょう)に存在するんです。
山と川に囲まれたまち、大豊町
北に愛媛県四国中央市と徳島県三好市(みよしし)、南に香美市(かみし)、西に本山町(もとやまちょう)が隣接する大豊町(おおとよちょう)。
日本三大暴れ川の一つ、「四国三郎」の異名を持つ吉野川がまちの中央を横断し、急峻な山々に切り拓かれた渓谷に位置する山岳地帯の町です。
吉野川もまた、「水質が最も良好な河川」に過去何度も選出された全国屈指の一級河川。その支流である奥太田川が流れる山深い秘境に、今回ご紹介する圧倒的なブルーを秘めた「箕淵(みぶち)」が存在します。
入口からすでにこの鬱蒼と生い茂る秘境感。ここは昔から地域の方々にとって畏れ敬われた神聖な場所であり、一般にはあまり知られていませんでした。
はじめは比較的整備された歩きやすい山道も数分もすると傾斜のきつい山道に変わり、分岐を下るとやがて目の前にしめ縄と紙垂(しで)が立ちふさがります。つまり、ここが神域と俗世を分かつ境界線。ここから先は神への敬意を払いながら、慎重に足を踏み入れましょう。
浦島伝説さながら、竜宮伝説眠る「箕淵」
木々をかき分け、急斜面を降り立った先に広がるのが、この「箕淵」。緑に覆われた険しい峡谷と神がかったブルーが織りなす光景は思わず息を呑むほど。言葉を発するのが憚られるほど辺りは静寂に包まれ、ピンと張り詰めた何かは、まさに神の領域。
箕をかぶせたようなかたちの淵が3つ折り重なって見えることから「三淵」あるいは「箕淵」と古くから呼ばれたこの場所。どこまでも深く青く透き通ったブルーは、まさに仁淀ブルーにも匹敵、あるいはそれを超えるような美しさをたたえています。
古くからこの淵には雨乞いの神である蛇神が棲んでいると伝えられ、箕淵にまつわる大蛇伝説が残されています。
町史によると、昔々、この地で大干ばつが起こった際、その雨乞いのため智海坊という僧侶が箕淵にこもり修行しました。ある日、うっかりほら貝を淵に落とし潜って探していると、奥に水のない場所を見つけ、そこには機を織る美しい姫がたたずんでいました。
姫は四方扉のある部屋へ智海坊を案内すると、北の扉だけは絶対開けぬよう言い含めて部屋を後にします。しかし、好奇心旺盛な智海坊は、次々に扉を開け、南に春、東に夏、西に紅葉の美しい景色を見た後ついに、禁断の北の扉に手をかけます。するとそこには大きな毒蛇がとぐろを巻いて智海坊に襲いかかりました。
危ういところで姫に救われ、命拾いした智海坊は、その後姫から山海の珍味でもてなされ3日間滞在します。そして姫に別れを告げて地上に戻ると、地上では時が3年も経っていて、行方不明と思われていた自分の法要が営まれていた…というお話です。まさに浦島太郎の竜宮伝説さながらですね。
日本古来の陰陽道では天空の東西南北を司る風水四神獣のうち、蛇と亀が絡まった玄武は北の方角を司り、また季節では冬、陰陽五行説では“水”、色では黒や冥界を司っています。この美しくも畏怖の念を感じる淵を前に、古い民話と風水思想が融合していったのかもしれないですね。
入山上の注意
箕淵の入口には、雨宝水神宮、いわゆる水神である蛇神を祀る小さな祠が祀られています。前述のとおり、ここは神域。古い言い伝えでは、蛇神は金属類を忌み嫌うことから、のこぎりや鉈(なた)を持ち歩く杣師(そまし、いわゆる木こり)は祟りを恐れてこの淵には近寄らなかったといわれています。
地域の人にとっては古くから神聖な場所。神への畏敬と参拝を忘れず、節度を守って訪れましょう。なお、当然ながら淵での遊泳や釣りは厳禁です。
画像のとおり、祠から先は道なき道の急斜面です。命綱などのロープもなく、バランスを崩せば滑落の危険性もあります。救助が困難な場所ですので、自信のない方は無理せず諦めましょう。あくまでも自己責任で。
あの美空ひばりさんも大成した!大豊町にあるパワースポット
箕淵のある大豊町には、もう一つのパワースポット「杉の大杉」が存在します。神代の昔、須佐男命(スサノオノミコト)が植えたと伝えられる推定樹齢3,000年の古代杉で、南と北の二株の杉からなり、根元で一つにつながっていることから、別名夫婦杉とも呼ばれています。
南大杉の幹周りは約20m、樹高約60m、北大杉の幹周りは約16.5m、樹高約57m。国の天然記念物にも指定され、その存在感と生命オーラに圧倒されるばかりです。
この杉の大杉のご利益を授かった人物に、あの昭和歌謡の歌姫であり国民的スーパースターの美空ひばりさんがいます。
敗戦直後の混乱期、当時9歳でデビューを飾った美空ひばりさんは、地方巡業を重ねていたある日、大豊町でバス事故に遭い九死に一生を得ます。その療養後、再び「杉の大杉」を訪ね、「日本一の歌手になれるように」と祈願、その後文字通り、日本一の歌手に輝いたひばりさんは、14歳のときにお礼参りを兼ねてこの地を再訪しました。
そんなひばりさんゆかりの地として、その業績をたたえ、ひばりさんの遺影碑と歌碑が杉の大杉に隣接した「大杉の苑」に建てられました。遺影碑の横のボタンを押すと代表作「川の流れのように」が流れてきます。
<杉の大杉および大杉の苑の基本情報>
住所:高知県長岡郡大豊町杉794番地
電話:0887-72-1585(大杉料金所)
こちらは、杉の大杉の入口周辺に立つ「道の駅大杉」。こじんまりとした素朴な道の駅ですが、大豊町のお土産品や大豊町名物の立川そば、特産の碁石茶で炊いた碁石茶御膳、JAL国内線のファーストクラス機内食で採用された特産銀不老豆を使用した大福やロールケーキなども楽しめます。
箕淵や杉の大杉でパワーを注入したら、今度は大豊町の名物でお腹と食欲を満たしてみませんか?
<道の駅大杉の基本情報>
住所:高知県長岡郡大豊町杉743-1
電話:0887-72-1417
営業時間:8:00~17:00
箕淵に関する基本情報
住所:高知県長岡郡大豊町梶ケ内
電話:0887-79-0108(一般社団法人 大豊町観光開発協会)
アクセス:車の場合、大豊ICから国道32号(439号)経由で約13分。電車の場合、JR土讃線(どさんせん)大田口駅から徒歩30分。
2021年7月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。